【ATOM⑲自動運転と事故】

かえつ有明ブログ

配車サービスの大手ウーバーテクノロジーズ社が開発中の自動運転車で死亡事故が起きたというショッキングなニュースが319日に伝えられました。横断歩道ではないところで自転車を押しながら道路を横断中の女性と衝突したようです。運転席にドライバーはいたものの、完全な自動運転モードで走行中の出来事でした。時速約60キロで走行中であったことから、無謀な高速運転中ではなく安全運転といえる範囲と考えてよいでしょうが、これが完全自動運転中での初めての事故になってしまいました。ウーバー社は直ちに北米での試験走行を中止する措置をとったそうです。自動運転へ向けてのAIシステム開発にブレーキがかかるのではないかと気がかりです。

事故が起きたのは夜でした。夜間は人間でも前方が見えにくく、前方の状況把握は難しいことは全てのドライバーが経験することです。30年以上前のことですが、私は道路交通計測を目的にビデオカメラからの画像を処理して色々な情報を抽出する研究を大手電機メーカーと共同で行ったことがあります。その経験から、画像処理的には夜間は昼間とは比較にならない難しさがあることは理解できます。雨が降っているときは更に困難さが増します。今回の事故時に雨が降っていたかどうかは不明ですが、レーダーも搭載していると推測されるので、なぜ緊急停止出来なかったのか、と疑問に思わざるを得ません。システム開発において未検討な想定外の抜けた穴のようなものがあったのかも知れません。詳細は現時点では分かりませんが、凡ゆるケースをカバーすることの難しさを見た思いがします。一方では、今回のような困難な事態を一つ一つ克服することで、技術は進歩し、より完全なシステムへと進化できるとも言えます。自動運転への取り組みに急ブレーキが掛からないことを祈りたいですね。

手動運転と自動運転をシステム的に比較してみたのが下図です。人間は主として目からの情報に基づき、音や体で感じる加速度や振動などの情報を総合的に判断して現在の車の置かれた状況から1秒から数秒後の状況を予測・判断しながらハンドル、ブレーキやアクセルの操作をします。直接それらを操作するのは手と足ですが、それへの指令は脳から発せられます。この状況把握が重要であることは言うまでもありません。自動運転の課題は、如何に人間の状況把握力に迫り、上回るかと言って良いと思います。

自動運転車にも人間が運転に活用している情報と等価な情報を獲得する各種のセンサが搭載されています。システム的には図の上と下は全く同じ構造になっていると言って良いでしょう。そこで、両者の性能比較をしてみましょう。ハンドルやブレーキ/アクセルの操作については自動運転車の方が上である、とはっきりと言えるでしょう。乗り心地や燃費を考慮した最適な加減速やハンドル操作などは、システム的には導入し易い技術です。最適性については、車の所有者の好みに依存することですが、それに適応するシステムは現在の技術からすれば困難なことではありません。問題になるのはその基になる車を取り巻く環境・状況把握にあります。

人間が無意識のうちに判断できることを改めて何故かと考えてみましょう。向こうから歩いてくる人が誰であるか、親しい人であればその歩き方から誰であるかを判断できます。また、泣いたり笑ったり、大きく表情が変わる顔でも、直ぐに誰であるかが分かりますね。何故か?と自分に問うてみても、その理由をうまく説明できないですね。例え言葉で表現しても、それに当てはまる人は沢山いると言えるでしょう。人間には無意識のうちに、かつ容易にできるこのような判断をコンピュータに出来るようにしよう、という課題は一般的にはパターン認識と呼ばれます。この課題に対しては、世界中の多くの研究者がこれまで多大な年月をかけて取り組んできましたが、なかなか人間のレベルには到達できませんでした。この壁を打ち破る手段となったのがディープ・ラーニングという技術です。将棋や囲碁でトップのプロ棋士を打ち破ったのもこの技術のおかげといえるでしょう。ウーバー社の自動運転車にもこのディープ・ラーニングの技術が搭載されていると考えられます。AIシステムの利点は、人間が一生かかっても経験できない膨大な数の場面を学習できることです。今回の事故が回避できなかった理由は直ぐに明らかになるでしょうし、それへの対応は当然のことながら完璧に行われるものと予測されます。車を取り巻く環境・状況把握においても、AIが人間を上回るときは間近であると言えると思います。完璧な人間はいませんが、自動運転が受け入れられるには完璧性が求められます。どの程度の完璧性であれば許容されるかは議論のあるところと思います。

今回痛ましくも亡くなられた方へ哀悼の意を表するとともに、二度とこのような悲劇を起こさない自動運転の技術が確立することを切に願います。

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