【ATOM22 魚群に学ぶ衝突回避】

かえつ有明ブログ

皆さんは多数の魚(例えば鰯の大群)が一つの固まりになって整然と泳ぐ様子をテレビで見たこと、あるいは実際に水族館で目にしたことがあるのではないでしょうか。前後左右上下の魚同士の距離は僅かですが、その距離をほぼ一定に保ったまま流れるように泳ぎます。時々進行方向を急激に変えることがありますが、衝突することなく一斉にかつ整然と素早く向きを変え、しかも群れがバラバラに分散してしまうこともありません。方向転換後も変わらない密な集団の形を保ち続けています。これは見事というほかありません。

 

群をなす魚同士が、「これから右に曲がるぞー!」などと連絡を取り合っているのでしょうか。そうではありません。魚には体の側面に直線状に並んだ側線と呼ばれる感覚器官があり、それで水圧や水流の変化を感度よく検知することができるそうです。魚の目は頭の横に付いていますので、後ろの方まで見えるようになっています。これら二つの感覚器官からの情報に基づいて泳いでいるわけです。側線からの水圧や水流の情報と視覚情報とを組み合わせて前や横の仲間との位置関係をキャッチし、衝突を回避するために進行方向を変え、かつ仲間の魚と並走するために速度や距離などを調整していると考えられます。

 

これを工学的に実現した例があります。日産自動車が開発した“周囲と協調してぶつからないロボットカー「EPORO」”です。レーザーレンジファインダーで視覚情報を、パルスレーダーで側線の機能を実現し、接近したまま走行しても魚群と同じようにぶつからない走行を実現しています。ただし、このEPOROにおいては車同士が互いに通信しあうようになっており、この点では魚とは異なると言えましょう。

 

一般の車同士が通信しあいながら走る時代はすぐそこに来ています。コネクティッド・カーという言葉を良く耳にするようになりました。その定義は「インターネット通信が可能な情報通信システムを搭載した自動車や、スマートフォン、タブレットなどのデバイスと連携可能な自動車の総称」です。道路上の車が全てネットで繋がり、それぞれの目的地も把握できているとしましょう。しかも全てが自動運転車とします。そうすると道路上の車全体を最適に制御するシステムを考えることが出来ます。

 

ラッシュアワーの交差点を考えましょう。赤信号で30台の車が青信号待ちで停車しているとします。青になりました。先頭の車が発進します。それに1~2秒も遅れて2番目の車が発進します。その更に1~2秒後に3番目の車が発進します。このようにして、最後尾の車は30秒から1分も遅れてようやく発進することになります。これが現在の姿です。自動運転車になれば、安全のための車両距離は現在よりも狭くできるので発進はより早くなるでしょうが、コネクティッド・カーになればより進んだ制御が可能となります。

 

全てがコネクテッド・カーとしましょう。制御センターに各車の目的地が登録されますので、各車の走行ルートが決まります。それらに基づいて、道路状況に応じて車線変更のタイミング、車間の制御、交通信号の制御なども最適にコントロールすることが可能です。図をご覧下さい。青信号になったときに、極端ですが信号待ちをしている30台の車を“ほぼ一斉に”と言えるほどの間隔で発進させることも可能です。人は視覚的に急停車が必要な事態を検知してから実際にブレーキを踏むまでに平均的には0.2秒の遅れがあります。時速60kmで走っているときには、0.2秒の遅れは距離にして3.3mとなり、それだけ走行してからようやくブレーキが掛かり始めることになります。コネクテッド・カーであれば少なくともその分(30台とすればほぼ100m)だけ詰めて走行しても安全であると言えます。「信号3回待ち」などというところでも1回で交差点を渡れるようになるかも知れません。列車は各車両がしっかりと連結したまま走行するように設計されています。極端な表現ですが、道路上を走る各車が列車とは言えないまでも緩く連結され、車間も柔軟に変化しながらも一体となって走行するイメージにどんどん近づきつつある、と考えれば良いでしょう。

 

図に示すように、車を適当な固まり(ここではこれを車列と呼びます)として制御するとしましょう。図には縦方向の車列は示していませんが、当然ながらあるものとしましょう。一つの車列の長さと後続の車列との間隔を適切に設定すれば、交差点において次のような“芸当”が可能かも知れません。図の横方向(左⇒右、および右⇒左)に進む二組の車列が交差点を通過します。それぞれの後ろの車列が交差点に到達するのに一定時間の空白ができます。その空白時間には縦方向に進む上⇒下、および下⇒上の車列が交差点に入れることになります。その車列が交差点を通過するのに必要な時間後に横方向の次の車列が交差点手前に到達するように車列の長さ、間隔と車速、それに信号の周期が制御されていれば、全ての車が交差点で停車すること無く、縦方向も横方向もお互いの車列の間隙を縫って交差点を通過できることになります。これに似たことを我々はスクランブル交差点で行っていると思いませんか。歩行者一人ひとりがそれぞれの方向に向かって衝突もせず、ほとんど立ち止まることもせずに人と人との間を縫うように歩いているわけです。

 

以上の交差点での“芸当”では歩行者の横断や右折車および左折車のことを考慮していませんが、右折・左折の専用レーンや歩行者用の横断エスカレータを設置できれば、上に示した“芸当”に近いことが可能です。勿論、一つの交差点だけで事は済みません。前の交差点や次の交差点のことも考慮したときには、事は急に複雑化します。どのような問題が出てくるのか、その解決方法はあるのか、などと色々考えてみてはいかがでしょうか。夢を膨らませてみるだけでも楽しいですね。

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