【ATOM⑧】人工知能システム(AIシステム)をめぐるトピックス

DATE : 2017/7/26

鉄腕アトムは、ソフトウエアの側面からみたとき、際立って進化したAIシステムです。勿論、漫画・アニメの世界でのことですが、現実はそれが絵空事ではなく、やがては実現してしまうのではと思わせる勢いで進化しています。

 IBMのディープ・ブルーと名づけられたスーパーコンピュータがチェスの世界チャンピオンであるガルリ・カスパロフに勝ち、世界的大ニュースになったのが1996年でした(6番勝負としては4-2でカスパロフの勝ち)。翌年には6番勝負としてもディープ・ブルーが勝っています。2012年には、チェスよりもルールが複雑な将棋において、トッププロで将棋連盟会長(当時)であった米長邦雄永世棋聖がコンピュータ将棋ソフトのボンクラーズに負ける結果となりました。

 それでも、囲碁ではコンピュータがプロに勝てるようになるのは相当先の話(20年はかかると)だろうと人工知能研究者の間でも言われていました。それが覆ったのが昨年(2016年)の3月のことでした。チェスや将棋は駒の動きが決まっており、盤面は9×9路であるのに対して、囲碁は一つの石の価値が局面ごとに大きく変わり、何処に打つのが最適かを測るのが難しく、直感的な着手になる部分が多くなります。コンピュータにその“直感”に相当するものをプログラミングすることが困難だからです。しかも、順列・組み合わせの数としては囲碁では19×19路となり、将棋に比べると桁違いだ、・・・、というわけです。ところが2016年3月、囲碁界のトップといわれる韓国棋士イ・セドルと対戦したイギリスのGoogle DeepMind社が開発した人工知能(AI)のコンピュータソフト「アルファ碁(AlphaGo)」が4勝1敗で勝ったのです。

 AIシステムの進展はゲームの世界だけではありません。IBMリサーチが開発した質問応答システム「IBM Watson」が、米国の人気クイズ番組「Jeopardy!」に挑戦し、最高金額を獲得したのが2011年でした。この「IBM Watson」はトップレベルの専門医でも診断困難な病名を正しく判定し、結果的に患者の命を救うなど、その応用範囲を広げ、発展しています。

 私が大学で取り組んだ研究の一つにマンモグラフィー診断支援システムの開発があります。乳房のX線写真(マンモグラムという)をコンピュータで解析して癌に相当する部分があるかどうかを判定するものです。図Aは乳房のX線写真です。このケースではどこかに一つの悪性腫瘍があります。分かりますか?

我々が開発したシステムは図Bにあるように、「ここが癌ではないですか?良く診て下さい。」と診断医に見落としの無い様に注意を喚起することを目的にしたものです。赤い丸印の部分がシステムが判断した悪性腫瘍です。見落とされる可能性のあるケースと言えるでしょう。これは今から20年ほど前のもので、当時の技術レベルとしては世界トップクラスでしたが、専門医のレベルには届きませんでした。

囲碁・将棋の世界ではコンピュータが人間を凌ぐ実力を持つことがはっきりしました。診断行為は医師が行うことに法律で決められていますが、IBM Watsonのように診断精度で専門医を凌ぐコンピュータシステムがこれから続々と出てくるでしょう。将来的には法律の改正もあるかも知れません。AIシステムの力は急速に伸びています。しかし、コンピュータには不得手なところが色々とあります。これからの時代を生き抜く道を探すときの判断基準にそれらを含め、自らの価値を高められるようにしたいですね。

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