前回、ロボットが進化し、知能レベルが向上したときに、反社会的な行動を引き起こす可能性について述べました。それ以外にも数多くの解決すべき課題が起きると考えられます。究極的に進化した人工知能(AI)が引き起こすかもしれないシンギュラリティも重要な課題です。
シンギュラリティという言葉をしばしば耳にするようになってきました。それは特異性と訳されます。特異性は数学や物理でよく使われる用語です。厳密な数学の定義は別にして、直感的に説明してみましょう。左側の図に示す関数はステップ関数と呼ばれます。x=aのところで不連続に値が変化するものです。右図はy=1/xを示します。x=0では分母が0になりますから、ここでは関数そのものが定義できませんし、x=0-と x=0+でそれぞれ-∞と+∞になりますから連続ではありません。y=1/x2はどうでしょうか。そのグラフを破線で示しますが、x=0-と x=0+で無限大になり、連続しているように思えますが、値そのものが定まりませんし、x=0では関数そのものが定義されませんので、やはり連続ではありません。このように、連続性がある、あるいは微分できる、などを基準にしたときに関数の振る舞いがそれを満たさない場合を特異性があるといい、x=aやx=0を特異点と呼びます。
AIは人類が生み出したものですが、技術は日進月歩です。人間の手を借りずにAI自身がそれ自身より優れたAIを生み出すような技術レベルの到来は必然でしょう。そうなると、AIがそれよりもより優れたAIを作り出し、そのより優れたAIがそれよりも更に優れたAIを・・・というように再帰的にAIの高度化が進むことになります。その結果、我々人間の想像を遥かに超える超越的な知性が生まれると考えられます。それが現実となったとき、科学技術の進歩はもはや人類の手を離れ、人工知能システムや機械の知性と完全に融合した人間:ポストヒューマンに委ねられ、技術革新は無限大ともいえるレベルに向かって指数関数的に進むと推測できます。もちろん本当に無限大になるわけではありませんが、生物学的限界をはるかに超えたスピードで技術革新が進む時代が到来するかもしれません。食料もエネルギーも超進化したシステム技術で自動生産・・・。持てる者と持てない者との差が拡大しないような社会制度のもと、人々は生活を維持するために働く必要がないという世界も夢ではない・・・。SF小説のようですが、かなり現実味を帯びた未来予測といって良いでしょう。
そのようなことが現実になるのがいつのことか、種々の予測がなされています。その中でレイ・カーツワイルは2045年と予測しました。合理性のある根拠に基づく予測と認められたためでしょうか、それを支持する人は少なくありません。人工知能の進歩が急激な技術の成長を引き起こし、人類の進化速度が無限大と言えるレベルにまで到達する状況になることをシンギュラリティと言います。そうなる2045年が技術的特異点と言われる訳です。実際に2045年にそうなるかどうかは不確定としても、人工知能が世の中を急激にかつ根底から変える可能性のあることは間違いありません。
技術的特異点の到来が2045年とすれば、今から30年足らずの近未来のことです。このような時代の到来を良しとするか否か、我々一人ひとりが真剣に考えてみることが必要でしょう。このブログを読む方々の大半は技術的特異点の到来を経験されるはずです。そのような時代をどう生きるか、社会体制はどうあるべきか、他人事ではなく自分自身に直接係わる問題です。色々と思いを巡らすと、小説が書けるかも知れません。