【かえつ有明2020】~石川校長のビジョン(12)~「読書」について

DATE : 2015/8/10

「読書」について

 

先日の部活動に続き、今回も夏休みにちなんだ話題ということで、読書についてお話したいと思います。

 

一冊の本との出会いが人生に大きな影響を与えると言われることがあります。偶然手にした本が、自分の人生を決定づけるというのはとてもドラマチックなことですね。しかし、ただひたすら受身で待っていても、実際に本を手に取ることをしなければそのような出会いもないわけで、そういう意味では、子どもたちが本と出会おうという気になるような機会を作り出すことも、私たち大人の一つの役割かもしれません。

 

自分自身の可能性に出会える場というのは、学校で言えば、授業で何かの刺激を受けたり、先輩との対話だったり、あるいは部活での経験もそのような発見があるでしょう。しかし、本当に未知の自分に出会うという意味では、読書体験に勝るものはないのではないでしょうか。

 

実用書を読むという場合にしても、インターネットで調べることに比べて、得られる情報量が圧倒的に違います。単に書かれた文字数として多いというだけではなく、例えば一万字という分量であっても、そこにまとめる前の厖大なデータや調査があったはずで、その編集の過程で、著者の専門家としての知見が反映されるわけです。著名な科学者が書いたエッセイというのは、科学に対する著者のスタンスというか、大袈裟に言えば世界観みたいなものが表れてきます。そういう雰囲気に触れると、単に情報を得るという以上の知的な刺激を受けるものです。

 

また、文学作品を読む場合は、様々な人生を追体験することになります。最近日経新聞の連載「私の履歴書」で、浅丘ルリ子さんが、役者の面白さは、多様な人生を経験できることにあるといった内容のことを書いていましたが、読書もまた同じ種類の楽しみを与えてくれるものだと思います。道徳的に悪い人物が描かれている小説でも、それは悪い書物だとは決して言えない。むしろフィクションとして描かれていることで、現実にはできないことを想像力によって体験することが可能になる面もあるわけです。

 

本を読むきっかけということで言えば、先生がふと口にした本というのが大きな影響力を持つことがしばしばあります。卒業生とインタビューして感じるのは、脳科学や宇宙といったことに興味を持ち、そのような方向に進路を定める時に、先生がふと口にした本が気になって、それを読んでみたら影響を受けたなどという生徒が意外に多くいることです。決して「読んでみなさい」といった押しつけがあったわけではなく、だからこそ生徒たちも読んでみようと思うのでしょう。

 

現実の進路選択においては、与えられた選択肢の中から選ぶことが多いですね。大学受験における大学学部選びなどが典型です。自分が選んでいるようで、実際には選ばされている面があります。そのような進路決定のあり方を全面否定しようとは思いませんが、時には時間や空間の制約を超えたもっと大きな広がりの中で、自分という存在を眺めてみるのも悪くないと思います。自分の中のどこに鉱脈が眠っているかは自分でも気づかないものです。

 

この夏休み、ぜひ本屋さんに行って何か本を手に取ってみてはいかがでしょうか。未知の自分の可能性に出会うかもしれません。

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