未来からの留学生(2)(前回の記事からの続き)
AI的な生き方とAIに使われない生き方
ビッグデータに基づき、確率的に正しい選択をする生き方と、未知なるものを楽しむ生き方。これまで以上に人間の志向が二極化していくのかもしれません。
未来の仕事がどうなるかは、誰にも完全には予想できません。
いくらAIでもそこを100%予測することは不可能でしょう。それは人の心理が関わってくるから当然で、株式マーケットが、人の思い通りにならないのと同じことです。人間は、気まぐれなところや、あえて逆を行こうとするところが面白いところで、そこを楽しめる感性というのは、人間の大切な能力の一つだと思います。
学びとの関連でお話すると、例えば1600年に関ヶ原の戦いがあって、東軍、西軍にどの武将がいたかなどといったことを知識として覚える勉強は、今後は必要なくなるでしょう。それは検索すればいくらでも出てきますから。ただ、両軍の勢力分析をしながら、当時の武将の心理状況を考えたり、自分だったらどのように判断するかと考えたりすることは、今後ますます大事な学びになってくるのだと思います。そこには決して合理的とは言えないような判断もあって、人間の面白さがあるわけです。
AI的なもの、ロジカルなものが広がっていく時代であるからこそ、ますます感性や人の心理に注目できる力が必要になってくるのではないでしょうか。
人間の特有の力=「妄想力」
バック・トゥ・ザ・フューチャーとか、手塚治虫の漫画などを見て感じることは、未来はこんな風になっているのではないかと妄想することが、人を突き動かす面があるということです。未来はロジカルシンキングで切り開かれるわけではなく、理屈では説明できないような妄想力によって、イメージされ、現実化されていくわけですね。
AIが音楽や絵画を作ることもこれからどんどん出てくるでしょうが、ベートーベンやバッハのすばらしさは消えていくわけではない。名画だって何百年経っても、相変わらず名画は名画なわけです。仏像で言えば、それこそ中宮寺の半跏思惟像の曲線美など、機械では絶対に出せないものだと思います。
小説や詩についても、AIが言葉を組み合わせて、テクニカルには作れるかもしれないけど、人が作品を作る行為、あるいは、人が歌ったり演じたりするということへの感動は残り続けるでしょう。
人との接点という面が相変わらず大事な鍵なのですね。未知の分野に対して楽しいと感じることができるかどうか、今まで知らなかったことや、自分とは違うものに触れる喜びを持てることができるかどうか、という点が人間特有の部分なわけです。
だからこそ、学び合いは大切ですね。他の人と議論することで、自分が他の人とどう違うのかということも自覚できるし、人間心理を考えるきっかけにもなるのだと思うのです。
アクティブラーニングの意義はまさにそこにあるわけで、ただ、一緒に学ぼうとすることがアクティブラーニングなわけではないし、ましてや黙々と一人で受験勉強することでは決して人間の本質的な能力を磨くことはできないものです。
中高時代にどれほどそういう学びが体験できるかということが問われているわけです。
ロジカルな部分はどんどんAIがやってしまうから、そこに対抗しようとしても限界がある。ロジカルは、相手の思考パターンとして認識しておく必要があるけれど、そこはAIに勝てないでしょう。だとするならば、AIの特性やロジカルシンキングを理解した上で、そこを突破していくような思考力、「突破思考」がますます必要になってくるでしょうね。妄想力というのはその突破思考のカギを握るのではないでしょうか。
ICT教育、AIからのリベラルアーツ、ICT教育についても、単にコンピュータの使い手になるのではなく、それを使いこなす能力が大事になるのですね。何かを調べるにしても、ただ「ググる」だけではその範疇を超えないというか、検索範囲が非常に限定されてしまうわけです。回転寿司を例に取れば、自分が主体的に皿を選んでいるようだけど、すでに選ぶ対象は限定されているようなものです。検索して自分で選択しているようだけど、検索する範囲はあらかじめ定められているわけです。結局は自分が情報を選んでいるようで、実は検索上位に来るものを選ばされている面があるわけです。
未知なるものを探し出すためには、検索ワードを妄想によって生み出したり、組み合わせの妙によって、新しいものを生み出したりするわけです。そういう意味では、ICTはすごく可能性にあふれているわけですが、あくまでも自分の感性が選択の判断に影響を与えているということを意識しておく必要があります。
機械に使われるか、機械から自由になるかという時代です。機械がやったことを鵜呑みにするのではだめです。クリティカルシンキングを発揮しないと。
カーナビだって、まずはこちらがどこに行きたいという目的があって使うわけで、カーナビに、今日は桜が綺麗だからどこそこに行きましょうなどと案内されていては、ちっとも面白くはないでしょう。
リベラルアーツは自由になるための技術だけど、これからの時代は、機械からいかに自由になるのかという時代になってくるわけですね。AIから自由になるリベラルアーツです。自分の感性、自分軸を発揮する時代となっていくわけです。
本校の思考力テストがこだわっているのも、まさにそういう部分で、与えられた情報を使うという以前に、自分があるキーワードからどういう妄想を広げるかということが大事になります。それと同時に、自分の引き出しに様々な経験や知識を持っておくことも必要ですね。