私は、子どもたちがこれからの社会を生きていく上で大切なことが三つあると思っています。ひとつは、感性・直感力のアンテナが立っていること、そして二つ目は、その感性や直感をロジカルに組み立てて伝達する能力です。感性とロジカルな能力というのは対になっていて、片方だけではうまく機能しない。それぞれが補完し合っています。
最近の教育では、ロジカルな面ばかりが強調されてきました。しかし、いかにロジカルであっても、本人が「これは面白い」と思わなければ本当の学びになっていきません。面白いということが置き去りにされてきたために、主体的な「学び」ではなく、受け身の「勉強」になってしまうのですね。学校は、主体的な学びが実践される場ですから、模試や受験のことばかりではなく、それぞれの生徒が自分なりの興味や関心を育めるような教育が望ましいのです。
さらにもう一つ大切なことは、人と関わり合うことです。人と関わらないと先の二つの能力も磨かれません。自分を知るためには必ず自分以外の人が必要ですし、自分が周囲と異なることを認識すればこそ、自分の価値にも気付くのだと言ってよいでしょう。
感性・直観力の話に戻りますが、こういった能力を育むことは学校教育の役割の一つです。大学受験だけを考えていると、芸術科目が軽視されがちです。しかし、芸術に触れることは、歴史や文化に対する興味も刺激するはずですから、結果的に知識や教養につながっていきます。
体系的でなくてもよいから自分の引き出しに色々な体験が入っている状態。それがリベラルアーツの学びにつながっていくのではないかと感じます。色々なことを見聞きしていれば、自分の感覚に合ったものと出会ったときに「あ、これだ」と思うはずです。経験の蓄積がないとどんなに感度の良いレーダーでも感知しようがないですね。
そもそもリベラルアーツというのは、自分を自由にしていく学びということです。現代においても、様々なことを選択できる状態こそが自由につながるわけです。そのためには、分野を限定せずに広く学ぶことが中等教育においては特に大切ではないかと思うわけです。
ロジカルな能力ということで言えば、もちろん論理性は相変わらず大切です。問題解決能力なども、論理的思考力に支えられているわけです。ただし、これからの世の中ではそれは一人で解決しようとするより、他のメンバーとコラボして解決する力が求められます。一人で知識を溜め込むより、それぞれが得意な分野をシェアしながら進めることの方が有効であるのは明らかでしょう。
ビジネスの世界でもコラボレーションやコワーキングなどといったキーワードが溢れています。それだけ人との関わり、ネットワークを重視する世の中になっているのだと言えます。
「遊び心」なども大切な要素ですね。PDCAサイクルのようなきっちりとした管理だけでなく、適度な遊びが創造性につながっていきます。そのような創造性を育てるためのベースとなるのは、やはり一人ひとりの感性や直感なのです。