今回は多様性、ダイバーシティということについて考えてみようと思います。グローバル化が進展してくると、多種多様な人たちで一つのチームを構成することが増えてきますから、多様性をどう許容していくかということが非常に大切になります。TPP交渉とか、EUの難民受け入れ問題などを見ても、国家や民族という枠組みを越えたところで根気よく対話をしていくことが求められている時代だという気がします。
うちの高校で実践している新教科「プロジェクト」でも、数名のチームを組んで進めることが前提になっているので、それぞれのメンバーの考え方の違いをどう調整していくのかということが問題になったりします。もちろん同じ高校生という立場で、日本語という共通言語を使って進めていくわけですから、実社会で経験するハードルに比べれば、難易度は低いのかもしれません。しかし、テーマ選択に対する意見の違いを初め、課題をこなす適性などもメンバーによってまちまちですから、ここをどう乗り越えるかということは大きな課題です。
この時に大切なのは、異質だと感じる考え方をチームにどう取り込んでいくかということだと思います。つまり、トンガっている人のトンガっている部分を削ってしまうのではなく、そこを逆にチームの特色に変えてしまうような感性です。みんなが同じ均質なチームを構成するのではなく、デコボコしたもの同士がチーム内で、それぞれの役割を果たすような状態が理想です。
プロジェクトはそもそも、前方に目標あるいはゴールを設定することで成立するものです。ですから、目標をどのように設定するかということが、そのあとのリサーチや発表の良し悪しに大きく関係してきます。目標設定というと、人から与えられた目標だとか、数値目標のようなものを連想して反発する人もいるかもしれませんが、そういうことを言っているのではありません。あくまでも生徒たち自身の興味関心から出てくる目標であるし、その目標に向かうことで、高次の思考力が身につくようなものであるべきだと思います。
例えば、「商店街に行って、何かを調べてみよう」では目標になりません。「30人にアンケート調査をしてみよう」でも目標にはなりません。「○○のお店が商店街にあることで、そのお店にどのような利点があるのか」になれば、目標になり得ます。そのゴールに向かうために、どんな調査が必要で、だれがどのような役割を担うかといったプロセスが決まってくるはずです。
ここのプロセスが、プロジェクト学習の肝だと思います。当然ゴールを決める上で様々な意見を出し合うことが必要です。また、いったんゴールが決まれば、今度は調査方法の妥当性のチェックや、調査するべきことに漏れがないかどうかの検討もチームで行われることになります。
チームを組んで何かをするというときは、自分の思い通りにいかないこともあります。実はそこに大きなヒントがあったりするのですね。グローバルということは、そういう多様な人間同士がチームを編成するということなのです。自分の望むベクトルだけを見て、協力しない人は怪しからんと思うのではなく、他のメンバーがどういう気持ちでそこに参加しているのかということに思いを寄せていくことも必要なのです。
チームメンバー全員がコミットできるゴール設定ができれば、あとはプロセスの問題です。先生の役割は、良好なコミュニケーションの環境を準備すること、そして、ゴール設定の問いの立て方についてのアドバイス、さらにプロセスが妥当かどうか、時折アドバイスを与えるといったことになるのでしょう。よく言われることですが、「教える」のではなく「ファシリテートする」ことが大切になります。ファシリテートとは決して何もしないということではないのです。