生まれて間もない子犬がよちよち歩く姿や戯れる様子を見れば、誰でもが“かわいい”と感じますね。上野動物園のパンダに赤ちゃんが生まれました。赤ちゃんの公開が待ち遠しい昨今ですが、パンダの赤ちゃんのかわいさはまた格別です。人間の赤ちゃんも勿論かわいいですし、孫は無条件でかわいいといいます。 “かわいい”という感情を抱かせる要因、あるいは条件はいったい何なのでしょうか?
これは一つの研究対象となっています。以下は末尾に示す文献からの引用(表現は一部変更したところがあります)です。オーストリアの動物行動学者Konrad Lorenzは非力で助けを必要とする幼い動物に出会ったときに抱く感情を分析し、かわいいという感情を誘引させる項目として次の7つを挙げています。
(1)身体に比して大きな頭
(2)前に張り出た額をともなう高い上頭部
(3)顔の中央よりやや下に位置する大きな眼
(4)短くてふとい四肢
(5)全体に丸みのある体型
(6)やわらかい体表面
(7)丸みをもつ豊頬
人間や動物の赤ちゃんはほとんどこれに当てはまります。アトムではどうでしょうか。アトムは、描かれ方にもよりますが、ほぼ4頭身で、身長に比して頭が大きく、額も顔の大きさに比べて広いといえます。目の大きさや位置も条件(3)にピッタリと当てはまり、手足や胴体、頬も丸みを帯びています。かつ体表も人の肌と同じように見え、硬さは全く感じさせません。ただし、身長に比べて足は長くスマートに描かれますので、条件(4)だけは当てはまるとは言いにくいですね。それは、アトムが子供ではあっても非力で助けを必要とする幼い存在ではなく、正義感に溢れ、悪者を懲らしめる強さを持ち、身体能力に長けたロボットだからなのでしょう。それを考えてあのような姿・形にしたのではないでしょうか。そこまで計算しつくして、あのかわいさ溢れるアトムに辿り着いたのだろうと私は推測しています。そこまで考えるところに手塚治虫先生のすごさを感じます。
ATOMについては、現時点ではようやく頭部が形になったところです。写真でおわかりのように、かわいさは期待通りです。一方、色々なロボットがある中で、かわいさという視点からの対極にあるものの一つが機動戦士ガンダムではないでしょうか。今年の春に残念ながら撤去されてしまいましたが、お台場に身長20mの実物大のガンダムが設置されていました。たまたまお台場まで行く機会があったのですが、その時に一際にぎやかなところがあったので近づいてみたらガンダムを見上げながら感嘆している人々の輪でした。記念に撮った写真を下に示します。丸みを帯びたところはなく、ごつごつとしており、前に示したかわいさの条件には何一つ当て嵌まるものは有りません。
(文献)入戸野 宏、“かわいさと幼さの関係についての実験心理学的考察、”日本感性工学会 かわいい人工物研究部会 2周年記念シンポジウム資料集、pp. 7-10、2012年6月2日。