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【ATOM21 人工知能の開発研究 ー進む中国、遅れる日本-】

DATE : 2018/5/19

中国は大国です。GDP(国民総生産)で比較してみましょう。中国が日本を追い越してアメリカに次いでGDP第二位の大国になったのはわずか8年前の2010年でした。日本の経済成長が長い間ほとんどストップ状態で低迷している間に、中国がものすごい成長率で経済発展した結果です。その中国はその後も高いレベルで成長を続けています。一方の日本経済は相変わらずの低迷状態のまま現在に至っています。中国のGDPは日本を追い越してから僅か8年で日本の2.4倍にまで急伸しています。ただし、国民一人当たりのGDPに換算した場合には事情は異なります。国別の順位では日本は25位、中国は74位であり、日本の方が中国に比べて4.4倍も高い状態にあります。

 

その中国は巨大な人口を持ち、かつネット大国です。中国の現在の人口は13億3000万人強と推定されます。その巨大な人口を持つ中国でのインターネット利用率は2016年で早くも50%を上回り(中国インターネット情報センター(CNNIC)の2016年1月22日発表による)、現在のネットユーザーは7億3000万人程度とされています。これはアメリカの人口の倍以上に相当します。

 

2016年の日本のインターネット利用人口はどうでしょうか。総務省「平成28年版 情報通信白書」によれば、2015年末のインターネット利用者数は1億46万人、人口普及率は83.0%です。普及率は高いものの、インターネット利用者数で比べると中国は日本の7倍を越えているといえます。この数の差がAI研究開発に大きな影響があるのです。

 

AI研究開発の中心はシリコンバレーを中心にした米国です。その陰でこの分野の主導権を握ろうと、巨大なインターネット人口を背景に莫大な投資をしつつ、急激にその存在感を高めているのが中国です。未来学者として名高いAmy Webb が創設したFuture Today Institute (FTI) のホームページに次のような一文が掲載されています。

“The development of AI is our modern version of an arms race, and in 2018, China will lay the groundwork to become the world’s unchallenged AI hegemon. If data is the new oil, China’s massive, 730 million online population puts it in control of our largest, and possibly most important natural resource going forward — human data — and it doesn’t have the privacy and security restrictions that might hinder progress in other nations,” the report says.

 

日経XTREND 2018.4.26号によれば、中国は政府系ファンドを通して、国立AI研究所を設立するなど、莫大なAI投資をしております。また、大規模なIT企業であるアリババ集団、百度(バイドゥ)、騰訊控股(テンセント)などは、それぞれアメリカのシリコンバレーを中心にAI研究所を設立、あるいは設立予定とし、莫大な投資をしつつあります。米国の有能なAI人材を獲得することも目的の一つでしょう。中国人研究者が保有するAI関連特許の数は、既に米国の研究者の5倍にのぼるそうです。かつて日本政府が先頭に立ち、半導体製造技術の研究開発を国家プロジェクトとして推進しつつ産業界を牽引し、半導体製造で世界一になったころを思い起こさせる中国の動きです。それに比して日本はどうでしょうか。このままでは完全に立ち遅れてしまいそうです。

 

個人情報の扱いに厳しい日本では学校の同窓会名簿も作れない状況です。犯罪が発生したときに犯人の特定に威力を発揮するのが監視カメラの画像データですね。監視カメラは至る所に設置されています。しかし、そのデータは犯罪捜査という大義名分があればこそ警察のみが利用できるわけであり、研究に利用したい、となっても利用はできません。人間ドックや病気になったときの検査データにおいても同様で、少なくとも第三者が当該病院の外に持ち出して利用するには厳しい制限があります。今やCTデータをAIシステムに入力すれば、名医以上の精度で診断ができるようになっていますが、そのようなシステム開発には必要にして十分な多様な症例を含む大規模データが必要です。それを如何に収集するかが日本の研究者の最大のネックなのです。

 

しかし中国においては事情が異なります。国策レベルで考えれば、中国では一般的なプライバシーからくる制約を受けずに収集が可能です。個人がインターネット経由で発信する情報や道路に設置された監視カメラの情報なども制約無く収集活用できるのが中国です。膨大な人口を抱える中国であれば、研究開発に必要なビッグデータはほとんど制約無しに構築できる、というわけです。

 

日本においても平成28年4月に総務省・文部科学省・経済産業省の3省を結集して「人工知能技術戦略会議」が発足しました。AI開発・商業化のロードマップの策定を目指しているわけです。国がその重要性を認識しているところは良しとしつつも、大きなAI研究所の設立あるいは国主導によるビッグデータの構築などを行うという声も聞こえてきませんし、なんといっても予算規模が小さすぎます(各省ともH28年度予算で数十億円程度)。FTIのホームページにあるように、データは現代の石油です。これがものをいうAIシステム開発に遅れてはならないと思うのですが・・・。

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