自動運転技術の進展は急速です。その技術が成熟し、全ての車にそのシステムが搭載される時代はもうすぐそこに来ている、と言えます。
ドイツは自動運転においては先端を行く国といって良いでしょう。2017年に法整備がなされ、ドイツの大手自動車メーカーのアウディはレベル3の自動運転車の量産に入っています。“限定された条件”のもとでシステムが全ての運転タスクを行いますが、システムが対応できない状況に於いてはシステムからの要請により運転者が操作を行う、というのがレベル3です。従って、運転者は常に運転席でいつでも対応できる態勢でいる必要があります。日本でもレベル3に対する法的検討が進みつつあります。まだ案の段階ですが、運転者がスマートフォンを使うことは許される方向で議論が進んでいるようです。各自動車メーカーもレベル3の車の実用化を2020年ころに定めて開発を急いでいるとみられます。
群馬大学、日本中央バス、および前橋市は、バス運行の自動化技術の開発を目的に、自動運転実証実験事業の実施に関する協定書を平成29年10月20日に締結しました。そして今年の12月14日から実際に乗客を乗せた営業路線での実証実験を開始しています。運転席には運転手が乗車し、必要であればいつでもマニュアル運転に切り替えて乗客の安全を図る形になっています。上毛電鉄中央前橋駅とJR前橋駅を結ぶ僅か約1kmの区間を担うシャトルバスです。とはいえ、高速道路ではなく、普通の営業路線ですから、交通信号があり、横断歩道もある一般道路における自動化へのチャレンジであり、このような実証実験は全国初の事例です。来年3月末まで実証実験を行い、2020年の実用化を目指しています。東京オリンピックという記念の年に自動化されたバスが実際に運行されることが期待されますね。
自動運転の車は安全走行に必要な種々の情報をリアルタイムに収集しながら走行することになります。目の前の信号認識や前を行く車両との間隔はもちろんですが、対向車や後続車、道路上の人との位置関係の計測などは必須事項であり、それには多くのセンサが不可欠です。ゆくゆくは近隣の車同士が相互に通信を行いながら協調し、個々の車両のより安全で効率的な運行が図られるようになるでしょう。更には、地域全体の交通状況を一体的に制御することによる交通量の最大化を目的としたコントロールセンターも必須のものとなります。このセンターは単に交通信号の制御だけでなく、個々の車両に搭載されている自動走行システムに直接介入し、その地域における交通流全体が最適になるような指令までも送るようになるはずです。局所的な道路状況だけでなく、広域の交通流の状況に基づく全体の最適化を優先すべきものと思われるからです。なぜなら、それにより全体の交通量は最大化され、事故は激減し、平均走行速度も大幅に向上することが期待されるからです。交通革命といって良いかもしれません。
現在の交通流は個々の車がそれぞれの運転者の意志に基づいて走行しており、相互の関係を最適に調整した形にはなっていません。先々の交通信号の変化も考慮しようにもその情報は無い状況下で走行しています。多数の人から成る組織に例えれば、一人一人は最善と考えた行動をとっているとしても、組織全体としては最適にはなっていない状態に相当します。現状の交通流はいわば乱流のような無秩序流であり、これからはそれが清流のように秩序のある合目的流に進化してゆく、と言えるでしょう。
良いこと尽くめですが、ここに至るまでには多くの解決すべき課題があります。これからは高度で大規模な交通管制システムに置き換えられて行きますが、この社会的インフラ・システム構築には莫大な費用が掛かります。それを誰がどのように負担するのか、これは大きな社会的課題です。その議論はこれから始まる、といって良いでしょう。立場の違いによる利害の対立は大きく、合意形成には多くの困難が待ち受けていると予想されます。
自動運転が広く普及した時代であっても交通事故が完全に無くなる事は考えにくく、事故が起こることを前提にすることが必要でしょう。レベル3の自動運転システムの時代を考えて見ましょう。このレベルにおいては、万が一の場合に運転者が対応することになりますが、システムが運転者による車両操作の要請を行うタイミングには極めて微妙な問題が含まれています。十分に余裕のあるタイミングでの要請に対応しなかった場合には運転者が責任を問われることには異存は無いと思われますが、通常では対応不可能なタイミングでのシステムからの操作要請も考えられます。システムと運転者の何れに責任を課すのか、あるいはその責任の分担割合はどうなのか、その線引きには極めて微妙なものがあります。
技術の進展は急速です。法整備は遅々として進まない、ということだけは避けたいものです。早急な対応が行政側に求められています。