アトムの魅力の一つは、“なんともかわいらしい”と表現する以外に適切な言葉が見つからない愛らしい顔ではないでしょうか。無条件にかわいいのです。とんでもない超能力を持つにもかかわらず、顔はおさな子のそれであり、庇護したくなる感情を強く誘発させます。多くのアトム・ファンも同感なのではないでしょうか。そんなアトムの顔が三次元ロボットになったATOMでどのように表現されるのかは、私が強く興味をそそられたことの一つです。そのATOMの顔部分が第一回の部品配布に含まれておりました。写真に示すように、寝顔ではありますが、そのかわいらしさは期待を裏切らないものでした。眠りから覚めたATOMの顔がどのようになるのか、興味は益々募ります。漫画やアニメでのアトムは二次元で描かれます。それがATOMでは三次元になるわけです。もともと二次元で描かれたものが三次元になるわけです。そこに一つの興味が沸いた、というわけです。
我々は2つの眼で外界を認識しています。左右の目の網膜には、少しだけ異なる位置から見た外界が写し出されます。その2つの網膜上には、両眼間の距離だけ離れた位置から見た外界が写っていることになりますから、同じ画像ではありません。両者を比較し、三次元空間上のある点が右目と左目から見てどのような方向にあるかが分かれば、その点が三次元空間のどこであるかを知ることができるのです。良く知られた三角測量の原理に基づくわけです。その原理を念のため簡単に説明しましょう。二次元で図示しました。ATOMの顔を鼻のあたりで水平に切断したときの断面を考えることにしましょう。その切り口の曲線をLとします。曲線L上の任意の点P1を、左右の目の位置AとBから見たときの角度がθ1とφ1であったとします。距離ABが分かっていますから、直線ABとなす角度がθ1とφ1の2本の直線を引けば、それらの交点からP1の位置がユニークに定まることになります。他の点P2、P3、P4等も(θ2、φ2)、(θ3、φ3)、(θ4、φ4)、・・・を同じように測定すれば、その位置が定まり、測定点の間隔が十分に狭ければ曲線Lが測定できることになるわけです。立体になっても同様の原理が適用でき、曲面上の任意の点が左右の目から見てどのような角度(三次元の場合にはAとBそれぞれで2つの偏角が必要)に見えるかがわかると、顔の表面を示す三次元曲面が復元できることになります。
サラッと書けば以上のようになりますが、実際に2台のカメラを使い、三次元空間を写真にとり、2つの二次元画像を用いて三次元空間を復元する(一般にロボット・ビジョンといいます)には、解決しなければならない問題が潜んでいます。それがどのようなものであるかは次回以降で触れる機会があると思いますが、今回は、中2で学ぶ三角形の合同条件がロボット・ビジョンで重要な役割を果たしていることを生徒の皆さんには知っていただきたいと思います。中学で学ぶ原理が、二つの目を持ち、空間を認識しながら行動する最先端のロボットで使われているのです!