講談社から、『ATOMの開発現場に潜入せよ』というタイトルの開発秘話が出ています。
それを読んで思ったことをつづりましょう。
漫画やアニメで表現されるアトムは二次元の画像です。ただし、二つの異なる位置から見たときの二次元像が対になって存在するわけでもありませんし、描かれるのは顔のパーツの輪郭線だけで、それもほとんどが曲線ですから、前に紹介したような方法は使えません。しかし、何百万枚(?)と描かれたアトムですから、色々な角度から描かれた顔が大量にあるはずです。その頭部の輪郭線から簡単に三次元のATOMが・・・、と思いませんか?本当でしょうか?
アトムはロボットですが、非常に表情が豊かです。笑う、怒る、悲しむ、などの場面でのアトムの表情は大げさに誇張して描かれます。しかも、三次元的にはつじつまが合わないような描かれ方もされています。したがって、工学的手法を直接適用しようとしてもうまくいきません。富士ソフトの開発に携わった方々も相当苦心したようです。アトム特有のかわいさ溢れる顔を作るために、手塚プロダクションとの連携のもと、何度も作ってみては修正を加えるという作業を繰り返したそうです。
アトムのファンはそれぞれアトムの顔に対する固有のイメージを持っています。そのイメージはきちんと三次元に構成されたものではないと言えるでしょう。私自身の頭の中にあるイメージは二次元で、それも漫画の中で描かれる印象的でかわいさ溢れる正面か斜めに向いた顔です。漫画の中のアトムはほとんどがこの角度で描かれているためでもあるでしょうか。そのようなイメージにできるだけピッタリと合致する印象を与えるATOMが求められるわけです。富士ソフトのATOM開発チームの皆さんは、そのような立体のATOMを試行錯誤的に追求していったわけです。大変な作業であったようです。ここからは推測ですが、それは芸術的な感性に基づく作業であったかと思われます。少なくとも、三角測量のような計算に基づく“乾いた”アプローチとはかけ離れたものであったでしょう。また、「かわいい!」という感情を抱かせる顔であることが最優先の条件でした。
その努力の結果を下の図に載せました。眠るATOMの頭部が、今週の部品を組み合わせることにより、その姿を見せて来たのです。期待通り、かわいいですね。
そもそも「かわいい」とはどのようなことなのでしょうか?AIの進展が著しい昨今ですが、感性とか感情のような領域にまでAIが進出してくるのは、まだ先の話と思いたいですね。人間らしさの本質的な部分にかかわることと思えるからです。しかし、顔の表情、テキスト、音声などから感情を推定するなどの研究は既に活発に行われており、進展も著しく、それらの実用化は意外に早く到来すると思います。人間らしさをどこに求めるか、という時代が直ぐ近くまで来ているのです。